あの惨劇から5年、フレディの生命を繋ぎとめていた央魔の血の効力は尽きようとしていた。

*    *    *

青々とした木々に囲まれた小川の辺に追いかけっこの終えた二人はいた。
柔らかで涼しい風が枝を僅かに揺らし葉は音を立て、脛あたりまでしか深さのない川は青空を写し、木々の影で鳥はさえずる。
そんな爽やかな空気のもと、2人の間に流れるのは羞恥を伴う気まずい雰囲気だ。フレディとレナは並んで座っているが二人の間には人が2・3人座れる程の距離がある。
屋敷内どころか村中にそのやりとりを響かせ、レナは性的な方面での放送禁止用語の数々を口走りその内容も誤りを含んだもので、そんなレナにフレディは誤りを正そうとして「全部俺が教えるから!」と口走ってしまい村中からエロ旦那だのエロディ様だの言われる羽目になった。
今村に戻る事は出来ないが、かと言って他に行ける場所もない。
長い沈黙から先に言葉を切り出したのはフレディだった。
「うん、あの、ね……いくら男の生理でもああいう苦しみ方はしないからね…?」
「ご、ごめん……」
メリィは悪夢に苦しむフレディの身を案じていたレナとパイ作りをしながら、初めは軽く下ネタを交えて心配する事はないと聡そうとしたのだがレナがあまりに無学なのでついつい悪戯心がわいたらしい。ディープキスについて教えたのも彼女だ。その他諸々、余罪は多い。
放送禁止用語の言葉のみならずその内容も伝えられており、その説明も中途半端だったり嘘が混じっていたりとしたものだ。もちろん口頭でのみの説明であるためレナ自身うまく想像出来ていないものもある。それでもレナはフレディを苦痛から解放出来るのなら、と彼女なりに一生懸命勉強してしまったようだ。昨夜、眠りを選ばなかったら何が起こっていたことやら。
レナもある程度恥ずかしい事であることはわかっていたが、自分の口走ったそれは自分の思っていたものの倍以上に恥ずかしいものであることを理解し、抱えた膝に茹で上がってしまいそうな顔を埋めている。
「血なら……フレディにならあげるからね?」
「いや、それは祓い手としてNGだから」
気持ちだけ有り難く頂くことにして、血の誘いについてはきっぱりお断りする。
レナにはそれが血に対してだけではなくレナ自身に対しての拒絶にも思え、落胆の色を濃くする。
「早とちりしてフレディの気持ち無視してはしたないこと言ったよね。ご、ごめんね………私……あの…その……」
レナの言葉尻が窄んでゆく。顔は彼女自身の腕と膝に隠され見えないが、涙が出そうになっているのは声色からよくわかる。
その様子にフレディはレナに告げる。迷いはなかった。昨夜のレナのように同情なんかじゃない。もともと自分の気持ちなど火を見るより明らかだ。

「ねえちゃん、俺……ねえちゃんが思った通りの意味で言ったんだけど?」

 レナが顔を上げる。けれど言葉はでない。無言の時の中、風が吹きぬけザァッ…と木々が音を鳴らす。強くもない風なのにその音が大きく感じたのは二人が互いの声を聞き逃すまいとしたせいだ。
 先日、レナは尋ねた。誕生日に欲しいものはあるかと。フレディの望むものは金では買えず、互いが同じ心を通い合わせなければ得られない。二人の関係はまだ正式にはまだ恋人ではなかったが、互いの心は言い合ったようなものだ。自惚れたっていい。
 フレディは距離をつめ、レナのその手をとった。

「誕生日、期待していい?」

耳まで朱に染まったレナの顔は、戸惑いながらも小さく頷くまでフレディから視線が反れることはなかった。


End